(2)労働者が勝手に長時間働く――その分受領する義務は?


 時間外労働が問題となる場合、それが直接的に上司の指示によらない場合があります。「残業時間に制限がある」、すなわち一定の時間を超えた時間外労働には時間外労働手当がつかないというような場合は、これに該当すると考えられます。また、使用者が労働者の「無能」を口実にする場合もあります。この場合、使用者に対してその労働を対価のついた労働として認めさせることが可能かどうかが問題となります。この場合、いわゆる使用者の労働受領義務が問題となります。
 労働受領義務とは、判例上、「労働契約等に特別の定めがある場合又は業務の性質上労働者が労務の提供について特別の合理的な性質を有する場合を除いて、一般的には労働者は就労請求権を有するものではない」と判断されています(読売新聞社事件=東京高裁決定1958年8月2日労働民事判例集9巻5号831ページ)。この場合、この「特別に合理的な性質を有する」とは何かが問題となってきます。
 しかし労基法32条が1日8時間を超えて労働させることを禁止していることに鑑みれば、このような「労働者が勝手に残業している」実態を使用者が野放しにすることは許されないということになります。その場合、使用者は、法違反を免れるために、最大限の努力をする必要があります。その場合には、当該部門に人を増員するなどの措置を講じることになると考えられます。
 このように考えれば、「労働者が勝手に働く」実態が野放しにされている場合に、労働者からその分の時間外労働手当を請求された場合、すなわち使用者にその分の労働を受領するように迫られた場合には、前記判例の「特別に合理的な性質」に該当すると考えられます。

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