(6)過労死が発生した場合の使用者の安全配慮義務

 長時間労働職場では、労働者がとくに上司の指示に基づかずにみずから長時間の労働をおこなっているかのような職場も見受けられます。この場合、いわば職場の空気や慣行的なものとしてなされているケースもあります。この場合に、使用者の責任はどうなるのでしょうか。とくにこの問題は、過労死が発生した場合に問題となります。
 一般に使用者には、判例上安全配慮義務があるとされています。陸上自衛隊八戸駐屯地事件(最三小判1975.2.25.判例時報767号11ページ)は、この安全配慮義務について判断した事例とされています。ここでは以下のように判断されています。 「国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するように配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っていると解すべきである」「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別の社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものである」。
 この事件は自衛隊員すなわち公務員の勤務関係について判断されたものですが、その勤務関係が労働契約関係に基づくいわゆる民間企業についても適用されるとされています。ここでは、安全配慮義務について特段の規定のない自衛隊員の勤務関係について、いわば事実たる慣習としての安全配慮義務を認めたものとして注目されています。
 民間の労働者の場合にはとくに、労働安全衛生法3条および4条で、使用者の安全確保義務および安全配慮義務を規定しています。
 過労死の場合には、労働安全衛生法3条1項で規定されている「快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」という文言が問題となります。
 その詳細な認定要件については2001年12月に厚生労働省の行政解釈に変更が加えられているところですが(注)、基本的には使用者にはこの安全配慮義務に基づく責任が発生することになります。
注)〈厚生労働省通達〉脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について(2001年12月12日基発第1063号通達)


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