(1)正しく時間外労働をさせる方法――時間外労働は原則禁止です


 まず大原則ですが、労働基準法32条2項では、「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない」と規定しています。この場合「させてはならない」という表現は文字通り禁止規定であると解されます。
 これに対して、時間外労働が可能となるのは、その禁止が解除される条件である労基法36条の手続を経た場合、すなわち36協定が存在する場合であるということになります。すなわち、使用者は、その事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との「書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合において」はじめて、「その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」ということになります。
 このように解すれば、使用者が労働者に対して時間外労働を命じるという場合は、いわば8時間労働の例外であるということになり、したがって当たり前のような顔をして残業させるようなことはゆるされないということになります。
 これに対して判例は、日立製作所武蔵工場田中事件(最1小判1991.11.28. 労働判例594号7ページ)で、「いわゆる36協定を締結し、所轄労働基準監督署に届け出た場合に、使用者が就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約の労働時間を延長して労働させることができることを定めているときは、当該就業規則の内容が合理的なものである限り、それが労働契約の内容をなすから、労働者は、その定めるところにより労働契約に定める労働時間を超えて労働する義務を負う」と判断しています。これはいわゆる包括的命令権説の立場に立った判例であるとされていますが、しかし36協定さえあればそれが残業命令権付きの労働契約になっているがゆえに使用者は職務命令として残業を命じることができると解するのは、本来の労働時間規制の趣旨に反するものであると考えるべきでしょう。
 なお、前期32条違反については、労基法119条により「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」を課すことができるとされています。これは労基法102条により労働基準監督官が司法検察員としての役割を担う場合に、その事業場を調査し、そのうえで有罪とするに充分な心証があった場合に検察官に送致した上で、検察官が刑事起訴し、その上で課せられるものです。
 実際には、労働基準監督官がこの権限をなかなか行使しようとしないために、違法な時間外労働が事実上野放しになっている実態があります。このなかには、前期の36協定の存在しない職場も相当数含まれていると考えられます。

もどる