「過労死・過労自殺」の前兆シグナルに敏感な社会を
《過労死シンポジュウムに参加して》



 6月11日、大阪過労死問題連絡会や労働基準オンブズマンが主催した「若者の過労死・過労自殺について考えるシンポジュウム(How K Live 〜仕事との付き合い方、考えたことありますか?〜)」が大阪市内で開かれ、会場には120名余が集まった。
 関西大学、神戸大学のゼミ生からの報告・提言があることから学生たちも多く参加していたが、過労死や長時間労働問題に対して、多くの若者たちが主体的に関わったことは素晴らしいことだと思う。

 ゼミ生は、過労死の研究にあたって、学生へのアンケートを実施し報告した。アンケート回答の中で支配的だったのは、「自己管理さえすれば過労死は起きない」という考え方だったそうだ。さらには、「過労死は中高年特有のもの」と思っていた学生が多かったことが報告された。

 しかし、研究する中で、20歳代で過労死や過労自殺する事実を知るや、「仕事一辺倒にならない環境作りをめざしたい。無理をしてはならない」「広く知らせていきたい」との結論を出している。

 次に報告に立った損害保険会社の若手営業社員は、自らの長時間で長過密な労働実態やなぜ長時間労働を強いられているかについて述べ、「中高年へのリストラは若い社員にシワ寄せが来るもの」として、「社会人になるとどうしても流されて余裕がなくなる。今日のシンポでの研究をぜひ活かしてほしい」と学生たちにエールを贈った。

 過労死・過労自殺で、20歳代の我が子を失った母親たちからは、悔しさ・無念さが訴えられると同時に「息子の通夜に参列した若い同僚の青ざめた表情を見て、この人たちに同じ思いをさせてはならないと、その一瞬、労災申請と会社への民事訴訟を決意した」と述べられた。いつわりざる思いだろう。

 これまで40〜50件の過労死問題を扱ってきたという、過労死問題連絡会の岩城穣弁護士は、「若者でも仕事で死ぬという状況が問題」と強調しつつ、「人をタダ働きさせてはならない。このことが常識となっていない企業があまりにも多すぎる」と指摘した。その上で、「過労死はサービス残業があるから生まれる。
 労基署に申告すれば解決するのだが、その勇気・きっかけが生まれる機運を作りたい」とむすんだ。

 会場からの発言の中で、新聞で今日のシンポを知り参加したという年配の女性から切実な訴えがあった。広告代理店にはたらく24歳の娘さんが、毎晩遅くまで残業し、土曜日も朝4時半まで仕事をし、翌日曜日も出勤しているという。自宅からだと通勤時間が惜しいので、会社の近くにひとり住まいをしているが、週一回顔を合わせるとフラフラの状態だという。そして、「相談したり告発すると娘の立場が悪くなるのでは…」という悩ましさも抱えているという。そして、「皆さんは社会を変えるというが、私は娘がどうかなってしまうんではないかと、それだけが心配なんです。娘のことだけを考えている私は恥ずかしいのですが…」と涙ぐんで発言された。

 私は、シンポ終了後、思わずその女性のもとに駆けつけ、「今すぐに会社を辞めた方がいい。このままでは過労死しますよ。損害保険会社でも『母さん、俺もう辞めたいよ』と言った翌日に過労死した若者がいる。お母さんが気づいたのは娘さんのシグナルです。本人とすぐに話し合った方がいいですよ」と余計なお節介をしてしまった。実は、母上の隣には父上も一緒におられ、黙ってうなずいておられた。ご両親がどれだけ娘さんのことを心配し、何とかしたいと思っているのか…。

 仕事で命を奪われた人たちは、「まさか自分が死ぬとは思っていなかった」と天国で呟いているのではないだろうか。そして、何らかのシグナルを家族や同僚、友人に送っていたのではないか。それはフラフラで青ざめた表情だったり、「しんどいよ」「辞めたいよ」という独り言だったり…。

 大切なのは、シンポに参加した学生のように自ら「知り」「学ぶ」ことであり、シグナルに気がつくことのできる環境を作っていくことなんだと思う。「『自己責任』は他者への無関心につながる」と立命館大学の櫻井純理講師が報告した。その通りっ! 今の政府や財界の言う「自己責任」が仮に必要としても、その上に成り立っているのは、助け合い支えあう人間社会なのだ。

 労働組合や市民団体の運動の前進と同時に、周りが見え、周りに伝えられ、そのことに敏感な社会・職場にしていけば、きっと過労死はなくなっていくのだ。

 最後に…。
 シンポでは脳神経外科医の新宮正先生からも話があった。詳しい内容は割愛するが、過労死に多いクモ膜下出血の原因にはいくつかあるが、高血圧もひとつの要因という。そして血圧が一気に上がる時とは、和式トイレでイキんだり、咳をしたり、興奮した時なんだそうだ。イライラしてトイレに入って咳こんだりしては、血管がブチッと切れますぞ。みなさんご注意を。

海老原寿哉(労働時間短縮研究所事務局長)
(2002年6月15日記)


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