労働基準監督署訪問記



 先日、大阪市内のある労働基準監督署を訪ねた。
 某金融会社の法違反労働の実態を告発し、労基署に指導してもらうためだ。いわゆる「申告」に行ってきた。

 労基署にはこれまでも何度も足を運んでいるが、「申告」は初めてのことだった。主任監督官が応対してくれる。まじめそうなタイプだ(ドキドキ)。

 時間外手当(残業料)の不払いの実態…。
 土曜・日曜の休日出勤の実情…。われわれが把握していることをすべて訴える。

 以前、労基署の上部組織にあたる労働基準局(今は労働局)に行政の役割を果たせと何度も要請に出かけたが、そのたびに、「労働組合があるところは、まず労働組合の力で改善してほしい」だとか、「ホワイトカラーより現業労働者の方を優先して調査している」だとか、「うちもリストラによる人員削減で過労死しそうだ」だとか、いかにも役人らしい対応にムカついてばかりのことを思い出す。

 しかし、今回の主任監督官様(あえて、様を付けますが)は違っていた。
 「もっと法違反の具体的な事実はないのですか?」
 「この資料はオープンにしてはダメですか?」
 「オフィスの退社記録などはないのですか?」などなど。
 なんとなんと、極めて積極的な姿勢ではないかっ!!!!!

 最後に、実態を捏造、隠蔽する可能性があるので、予告なしで調査に踏み込んでほしいとお願いしたら、「そうします。」との涙が出るようなご返事!!!!!

 もちろん、労基署任せでなく、経営者との交渉、はたらく人たちへの啓蒙…。
 法違反を改めさせ、まともな職場環境を作っていくには、やることは、やまほどある。

 しかし、頼もしかったのは、法違反を野放しにている無責任な経営者に対する、監督官の「怒り」を肌で感じたことだ。
 私などは、ついつい公務員の方々を「親方日の丸」などと感じることがままあり、ましてや、この間の官僚不祥事などもあいまって、正直言って不信感がないとはいえなかった。

 そういった意味では、今回の「申告」を通じて、私の中で大きな可能性が広がった。行政と労働者や労働組合が両輪になって頑張っていけば、何かが一歩変わるかもしれない…。経営者が見て見ぬふりができなくなるかもしれない。
 昨年度の過労死認定が、過労自殺も含めて過去最高の143件となった。厚生労働省の基準緩和が大きな要因だ。それでも、氷山の一角だろう。仕事で倒れたり亡くなったりしたら、労災認定されるのは当然のことだが、何よりも業務上での健康破壊や精神破壊、そして過労死がないことが一番なのだ。

 そのためには、悪の根源「長時間過密労働」とそれを放置する経営者を許してはならない。

海老原寿哉(労働時間短縮研究所事務局長)
(2002年5月23日記)


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