なぜ日本政府はILO第1号条約(8時間労働制)を批准できないのか

 標記の質問がメールで届いたことから、回答になるかどうか知れないが記しておきたい。質問は私が「MAYDAYの歴史 116年前に始まる8時間労働制」をwebに載せた事からだった。かねてからメーデーは深い研究課題だと思っていたが、関心が寄せられたことに感動。そこで、ひとつ付け加えて置きたい点がある。もともとメーデーは、冬の暗い長いヨーロッパで、人々が若草の出づる野原に集まり、花を摘み歌い踊る楽しい祝日でもある。しかし、このメーデーは5月1日ではなく第1月曜日ではないか、現在もイングランド、ウエールズではそうなっている。ヨーロッパでの春祭りで、花の冠をかぶらせて「5月の女王(May Queen)」が仕立てられ、遊戯などして楽しむ日である。エンゲルスはこのことも念頭にあったのかも知れない。この点からも日本のメーデー開催日を5月1日にしないとした連合は世界と歴史に背を向けたものである。
 質問の回答は「日本は1日何時間でも残業させてもよいとする労基法となっている」ため、国会に批准手続きができない。8時間労働制とは原則8時間以上働かせることができないことを指す。ヨーロッパにも残業はあるが殆ど1、2時間以内に限定されている。今では何の批准の動きもない。世界では残業時間の上限時間が厳しく規制されており、違法なら刑事犯となるほどである。日本では残業代も支払われず徹夜でも残業を命じることは可能である。こんな労働規準は世界に通じない。これが私の答えである。
 ILO条約は200本余り存在するが、日本政府が批准している条約はその内の4分の1のみである。ILOはこれまでに22本もの労働時間に関する条約を締結しているが、日本政府はただの1本も批准していない。それほど文明後進国なのである。もともとILO条約は第1号条約(8時間労働日、週48時間制)の場合でみても、ソ連で8時間法が制定されたのを受けてつくられているように、国際的にはどこかで決まったものの後を追って条約が採択されている。つまり、国際的に公正な労働基準としての性格を持つけども、それとて必ずしも最高レベルではない。それを一つも批准していないという日本は資本主義のルールさえ存在していないと言える。
 1990年6月のILO総会では、夜業条約が審議され、171号条約として採択されたが、この総会で日本政府代表は「夜業が労働者の健康に有害であるとの証拠はない」との立場を表明。国際産業衛生学会でも、日本産業衛生学会でも、夜勤が働くものの健康をどのくらいいためつけているかは生理学的に明白にされているにも関わらず、である。
 1919年のILO初回総会、1号条約を決めた総会であるが日本政府は、日本人が10〜12時間働くのは当たり前と主張し、特別国扱いを受けることになるが、これは日本の労働条件が世界の労働時間短縮の運動の妨げになることを公認した屈辱的な記録である。
 しかし、日本の労働者は、この年、有名な川崎造船、三菱造船(神戸市)の大争議をたたかい抜き、川崎造船の労働者がストライキでかちとった成果は8時間労働日の確定であった。この成果は直ちに全国の主要な工場に広がった。
 しかし、米騒動や労働運動の高まりに危機を感じた天皇制政府の苛酷な弾圧が吹き荒れ、特に昭和に入ってからは急速な軍国主義化のもとで、労働運動が冬の時代へと追いこまれ、1931年からの15年戦争へとつづくなかで、日本の労働者は労働時間短縮の機会を奪われ、長時間労働に苦しみ続けた。1936年で10時間14分、戦争の激化した40年10時間40分、敗戦の年は10時間51分という記録が残っている。戦争反対!有事法制はアメリカが引き起こす戦争への強制参加と憲法を全面否定する有事法制絶対反対!
 もうひとつの質問は、世界各国のメーデーの様子であった。日本のマスコミは世界のメーデーを殆ど報道しないが、日本共産党の「しんぶん赤旗」は毎日海外ニュースが報道され充実している。ここで紹介されているメーデーを紹介する。ドイツでは全国500ヶ所50万人参加、スローガンは「グローバル化にルールを持たせよ」「ルペン・ノー」。フランス、パリでは50万人、全国では110万人が参加、「共和国を救うため投票」「ルペンは総統(ヒトラー)になるぞ」などのスローガン。オーストリア、ウィーンでは10万人が参加、右派政権の福祉教育の改悪、失業対策の遅れに抗議。イタリアでは50万人が参加し、右派政権が個別解雇規制の一時停止を狙うなかで開催。メキシコでは10万人が参加「新自由主義的な労働改革反対」、1日最高10時間雇用可能な期限付き短期雇用導入などの「改革」に反対して決起。
 アジアでも韓国・朝鮮、中国、ベトナムなど殆どのくにで開催、フイリッピン・マニラでも10万人が参加、進歩的労働者同盟などが参加し経済のグローバル化反対などのスローガン。メーデー参加は休日扱いが殆どで、日本でもメーデー休暇権が多く認められていたが、この最近、生産性向上の徹底、成果業績賃金の広がりなどを背景にメーデー参加労働者が減っている。
 ところで、別の話題。EU諸国の年休を紹介する。EU15カ国の年間休暇は平均35日、最長はオーストリアの43日間、ドイツの42日、スウェーデン38日、ちなみに日本は24日で先進国中もちろん最低である。どうする?!

服部信一郎(労働時間短縮研究所専務理事)
(2002年5月11日記)


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