大阪におけるワークシェアリングによる雇用創出試算


(きわだつ異常なJC春闘「回答」に一言)
異常な状況が相次ぐ時勢であるが、今年の春闘「回答」はきわだって異常なものであった。賃金問題は労働時間課題と表裏一体と言える関係にあるだけに、まず言及しておきたい。JCなど連合大手組合にベアゼロの春闘「回答」が13日示され、各ビッグユニオンは労働者のささやかな期待さえ応えず、たたかわずして妥結した。しかも、回答当日ふくめ数日後には定期昇給延期や凍結が発表され、差し引きマイナス回答になるという異常なものとなった。
 闇雲な総人件費削減攻勢は大企業の社会的責任を自覚するものでないことは明瞭だが、サラリーマンの実質収入3年連続削減を確定させるようなことをして、どうして今日の消費不況を根源にしているデフレスパイラルを解消することが出来るのだろう。大企業は日本経済の行方に関心をもたないほどにまで至っているとしても、自らの首を締め付けることになっていることに気が付いていない。それほどに、グローバリゼーション、競争社会は拝金主義を増長させ、すべての価値観はカネと目先の儲けのみとなっているようにしか思えない。
 回答を受け入れた労使協調にある連合各ユニオンは存在意義がますます問われる事態をつくりだした。頑張っている労働組合もあるなかで、労働運動に対し、国民や未組織労働者からの信頼を傷つけていることに怒りを感じざるを得ない。
 「回答」と「逆提案内容」を記録しておく。史上最高の利益(連結経常利益)をあげる1兆円企業のトヨタ自動車がベアゼロ。日立1年間の5%賃下げ(実質3%の賃下げ回答に)、安川電機基準内10%カット、松下電器、NEC、東芝、沖電気など定昇実施の半年間延期や凍結、三洋電機ではWSを理由に20%カット電機大手が賃金引下げ、定昇延期・凍結を提案など、逆提案。住友重機は定昇凍結と年収15%カットを逆提案、16日になっていすず自動車が基準内賃金一律7%カット方針、松下電器が残業カット・勤続表彰者への副賞や記念品すら延期。しかも、三菱電機・松下電器では時間外割増を3割から2.5割に引き下げ、出張手当や出向手当のカットなど労働条件全体への逆提案(法定水準への引き下げ)。電機独占6社だけでも13兆円もの内部留保をもち、ビッグバス方式でつくられた「赤字」でことを進める異常な展開に。
 これらの企業がワークシェアリングを労務政策に展開し始めているが、まったく出鱈目であることを自らさらけ出す春闘「回答」でもある。

(ワークシェアリング試算結果)

 以下、サービス残業を解消することや有休休暇を100%取得するなど、労基法違反を是正するなどすれば、新たにどれほどの雇用が創出されるかを試算してみた。驚くことに、違法な不払い残業(サービス)を無くすだけで大阪だけで39万人分もの雇用をつくりだす試算結果となった。みなさんに!サービス残業をやめること、残業を縮小すること、有休休暇をとって、失業者に仕事を分かち合うことを呼びかけたい。

1.サービス残業無くすだけで39万人分の雇用創出

 日本の労働時間は労働省の「毎月勤労統計調査」(2001年)で1,848時間。ところが、総務庁の「労働力調査」(2001年)では2,205時間となっており、およそ357時間も長くなっている。事業主に調査する「毎勤統計」よりも直接労働者世帯に調査する「労働力調査」の方が実態を正確に反映しているとみることが出来る。すなわち、両調査結果の時間差がサービス残業(不払い労働時間)であると言える。
  平成12年毎月勤労統計調査地方調査年報によれば、大阪の従業員30人以上規模の労働者数は2,096,389人である。よって、年間のサービス残業時間総計は357時間×2,096,389人=748,410,873となる。大阪のひとり平均の年間所定内労働時間は1940時間57分(平成12年度府基本的労働条件調査報告書)で除すると、約385,665人となり、サービス残業を無くすだけで39万人分もの新たな雇用がうまれることになる。

2.時間外労働を無くして、13万人分の雇用創出

  府下労働者の残業時間は、ひとり当たり119:31(約120時間)であり、30人規模以上常用雇用数2,096,389人を乗すると、251,566,680となる。これをひとりの平均年間所定労働時間1940:57(約1941時間)で除すると、約129,607人の雇用増が30人従業員規模の企業で見込むことが出来る。

3.年次有給休暇を完全取得することで、6.6万人の雇用創出

  年次有給休暇についても同様に試算すると、有休付与日数は16日(勤続5年目、平成12年度府基本的労働条件調査報告書)、平均取得日数は7.95日であり、8.05日が未取得日数となる。すなわち、8.05日×7.63時間(1日の所定内労働時間)×2,096,389人=128,763,357時間となり、平均年間所定労働時間1941時間で除すると66,339人の新たな雇用増が見込むことが出来る。

4.政府公約1800労働時間制実現により20万人もの雇用創出

  政府は年間総労働時間を1800時間(所定内1653時間、所定外147時間)にすることを、先進諸国からの強い批判のもと1986年に国際公約をおこなった。年間実労働時間は1975:16(約1975時間)で、1800時間との差は175時間である。よって、175時間×2,096,389人÷1800時間=203,816人もの新たな雇用が創出できる。

(まとめ)
いずれの試算についても企業規模を30人以上とした。結果人数は控えめな試算であると言えるが、それでも合計70万人にもなる。国勢調査によれば、大阪府下の失業者数は30.5万人であり、この2倍以上の失業者を吸収できる。一気にそうならないとしても、サービス残業の解消や労働時間の短縮効果は絶大である。


服部信一郎(労働時間短縮研究所専務理事)
(2002年3月20日記)


この記事へのご意見・ご感想は、yutori@jitan-after5.jpまで。

もどる