『こぼすなよ−、落すなよ−』これが我が家のスキンシップ


 私たち夫婦には三人の子供がいます。結婚した長女は、我が家から自転車で7,8分の距離に住んでおり何か事あれば、いや何も無くても、4才の女の子と1才の男の子を連れてよく来ます。おかげで二人の孫の成長ぶりをリアルタイムに観察する事が出来て、30年前の子育てに奮闘していた時期を思い出させてくれます。
 当時はサザエさん一家にあるような、丸い「ちゃぶ台」が食卓でした。台所から3,4メートル離れており食事の用意はみんなでやるように心がけました。重いものや汁物は私や長女、箸や茶碗は次男坊、醤油ややかんは長男で、妻は陣頭指揮官でした。
 「わいわい、がやがや、くちゃくちゃ、むしゃむしゃ」の後はバケツリレーならぬ「食器リレー」に。私たち夫婦が両端で、間に三人の子供達が並ぶのです。私が最初に「こぼすなよーーー」と言って、汁の残っているお椀を一つ渡すと、長男が「こぼすなよーーー」次男が「こぼすなよー」長女が「こぼすなよー」そして、妻が「無事来たよー」と言って流しに置くのです。
 私が「落すなよ―」と言うと「落すなよ−」。「割っちゃだめだよ−」と言うと「割っちゃだめだよー」と続けるのです。気が付くと食卓はすっきり。楽しいものでした。  全員がそろった食後に「あれやろうか」と私が言うと、妻が「やろやろ」と続けると子供達は、ちょこちょこちょこと自分のポジションについたものです。
 共働きでふれあいの時間の少なかった我々が考案した「スキンシップ」はまだあります。
 それは「ゴキブリゴッコ」。ペットにしたわけでもないのに、大きな「チャバネゴキブリ」がよく出没していました。掃除はちゃんとやっていたのですがね。まあ、言うならば「ゴキブリ」も住みやすい楽しい家庭だったのでしょう。
 当時、保育園児だった次男坊がなぜか「ゴキブリ」をよく見つけるのです。ゴキブリ見つけの名人と言われていました。これをヒントに江口家オリジナルの「ゴッコ」が生まれたのです。実にシンプルな「ゴッコ」です。
 「アッ!ゴキブリだ」の誰かの発声で、父親こと私が四つんばいになり、ちゃぶ台をかたずけた部屋の中を逃げ回るのです。次男や子供達は折り込み広告を丸めて、ゴキブリを追い掛け回し、叩くのです。ゴキブリはしぶといので、「パシッ!」と叩かないと倒れません。この叩くときに、折り込み広告以外の物で叩くのは反則です。これは本物のゴキブリを叩いたときに、包んで捨てていたからです。新聞紙や書類であれば、必要なものであるかもわかりません。急所は背中で「パシッ!」と決めないとゴキブリは死にません。でも、部屋の中を四つんばいで逃げ回るのは実にしんどい。だから適当なところで、仰向けになって、手足を動かしながら、だんだん弱っていくのです。最後は丸めたおり込み広告を伸ばして、死んだゴキブリを包んだらお終いです。
 この「アッ!ゴキブリだ」声が発せられたら、何をさておいても「ゴキブリ」に変身するのが、「ゴキブリゴッコ」のルールにされてしまった。私の大きな誤算でした。

江口 裕之(労働時間短縮研究所所長)
(02・2・22記)


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